川の国・埼玉には、川を愛し川にまつわる活動に取り組むたくさんのプレイヤーたちがいます。本記事では、そんな「リバープレイヤーズ」の想いや独自の知見、プレイヤーだからこそ感じる川の魅力などについて紐解いていきます。

第2回の舞台は、言わずと知れた埼玉の観光スポット「長瀞」。名勝天然記念物の岩畳、和船に乗ってダイナミックに荒川を下るアクティビティ「ラインくだり」が特に有名なのではないでしょうか。

このラインくだりの船頭が、本記事でご紹介するリバープレイヤー。「秩父鉄道 長瀞ラインくだり」に務めて3年の船頭、田島さんです。

今回は、ラインくだりのオフシーズンで「こたつ舟」を運航している期間にインタビューを実施。船頭のお仕事内容や変化する自然環境の中での業務で気をつけていることなどについて、たっぷりと語っていただきました。

多くのメンバーが、他業界から「船頭」へ

長瀞駅から土産店の立ち並ぶ「長瀞岩畳通り商店街」を抜けると、そこに見えてくるのが長瀞ラインくだりの発着点。突如として現れる荒川や岩畳の姿は、非常に美しくダイナミックです。

今回お話を聞く田島さんが所属しているのは、荒川で舟下りを実施している3社のうち、秩父鉄道が管轄している「長瀞ラインくだり」。田島さんに、まずはその歴史について教えてもらいました。

「大正4(1915)年にはじまり、100年以上の歴史を持ちます。当初は人を乗せる目的ではなく、東京まで木を運ぶためにスタートしたものだったそうですよ」

奥秩父にある甲武信ヶ岳から長瀞へと流れてくる荒川は、そのまま埼玉県と東京都を通って東京湾に注ぐ約173kmの一級河川。ここを木を乗せた舟が通っていたと考えると、とても長い歴史を感じさせられます。

「今いる船頭は19名。僕が一番の若手で、上には30年以上のキャリアを持つベテラン船頭もいます」と田島さん。どういった経緯でこの仕事に就いたのでしょうか。

「船頭になったのは29歳のとき。もともと長瀞の出身で、ラインくだりの存在はよく知っていました。紹介をきっかけに船頭になったんですが、それまで働いていたのは製造関係の工場でしたね。かなり身体を使う仕事、という点では共通しているかも。ラインくだりの舟はエンジンがない人力稼働なので、毎日筋トレみたいなものですよ(笑)。周りの船頭たちも、身体を使う土木関係などの外仕事をしていたという方が多い印象です」

竿や舟のコントロールは、経験がすべて

20人ものお客さまを舟に乗せ、勢いよく川を下っていくスリル満点のアクティビティ。舟のコントロールは、基本的に「竿」と呼ばれる竹製の棒でおこなうと言います。

「ボートのようなパドルで水をかいて進むのではなく、水中の岩を竿で突いて前進します。そのとき、ひたすら力を込めるだけではダメ。『突きどころ』が大きなポイントで、突く場所が悪いと思いがけないところにぶつかっちゃうんです。深すぎて竿が川底につかないエリアもあるので、そこに行く前に一回ここで突いておかないと失速してしまう、なんてスポットもあるんですよ」

どこの岩を、どのタイミングで、どうやって突くか。何度も川を下る中で徐々にコツを掴んでいくんだとか。マニュアルがあるわけでもないので、ひたすら感覚を身体にたたき込むしかありません。しかも、常に決まった正解があるわけではないそうで……

「天候によっても、かなり感覚が変わります。たとえばいつも目印にしている岩がかすんでうまく見えなかったり、光の加減で水面状況が捉えにくかったり、風によって舟の向きが変わってしまったり……条件は毎日コロコロ変わる。やはり経験がものをいう仕事ですね。僕も日々勉強させてもらっています」

まさしく自然相手の職人仕事。荒川の水量も時間ごとに変化していくため、そのたびに臨機応変な対応が求められます。

「放流されたダムの水や沢の水がすべて集まってくるのが、ここ長瀞。天候の変化などで水量が上がると、流れは一気に速くなります。結果、カーブ部分で早めにインコースに入ったり、次の動きを早めに判断したり……というように、やることも変わってくるんですよね。予測を立てて検証して、また次の回で改善して。毎回この繰り返しです」

そう語る田島さんの表情は真剣そのもの。自然の繊細さがそのまま操船環境に影響するからこそ、天候の変化があったときは必ず朝一の試運転を実施すると言います。

「水量のほか、航路に異常がないかも確認します。たまに川岸の木が倒れていたり、岩が動いていたりするんですよ!状況によっては川の整備や安全確保の作業もおこないます。2年前には、岩が崩れてその上の木も倒れていたことがありました。かなりの規模だったので、町の皆さんと一緒に作業をしましたね」

航路整備の作業は、1日で済むときもあれば1週間もかかってしまうこともあるそう。こうした安全な運航のための作業もまた、船頭の仕事なのです。

楽しく安全であるために欠かせないチームプレイ

毎日たくさんのお客さまを舟に乗せる田島さん。日々の業務を振り返り、こんな話もしてくれました。

「やはり舟に乗ってくれたお客さまに『楽しかったです。また来ます!』と笑顔で言ってもらえると活力が湧きますよ!そのためにも、まずは安全が第一。楽しませるのが仕事ですが、すべては安全があってこそ成り立ちますから」

自然の手強さを知っているからこそ、絶対に外せない「安全性」。長瀞町では、こうした荒川でお仕事をされている方々や消防、警察が一体となって訓練をする「長瀞官民合同水難救助訓練」を毎年実施しています。

「他のリバーアクティビティをやっている方とも交流しながら、人が川に流されてしまった場合などを想定した訓練をしています。ラインくだりで川に落ちることはまずありませんが、万が一に備えて毎年続けていくことが重要ですよね。またこれに限らず、他のラインくだりの方ともしばしば川の状況や対応策などの情報交換をしています。お客さまの安全を守るため、船頭どうしの情報共有は欠かせません」

長瀞を拠点に活動する一人ひとりが、「楽しさ」を提供する一つのチームとして強固な関係を築いている。この事実があるからこそ、お客さまも安心して川とふれあうことができるのかもしれません。さらに田島さんは、舟についてもこう語ります。

「船頭が安全面に注力するのはもちろんですが、舟自体も荒川で転覆することがないように工夫された構造になっています。基本的な形は昔からずっと変わっていないそうですよ。ちょうど今、舟大工がこれからのシーズンに向けて新たに2艘つくっています」

船頭だけでなく舟大工も一緒に、ラインくだりの安全を支えている。やはり楽しいアクティビティはチームプレイで成り立っている、ということがよく伝わってきました。

最後に、これまで船頭のお仕事の難しさや素晴らしさを教えてくれた田島さんに、あらためて長瀞や荒川の魅力を語ってもらいました。

「青々とした新緑、赤や黄色に色づく紅葉、雪が積もった冬景色……と季節によってガラリと変わる表情を楽しめるのが、この長瀞の魅力。ちなみに一番人気の紅葉シーズンは1時間以上待つこともあるので、朝一に来るのがオススメですよ。いろんな季節の魅力を感じに、ぜひ何度でも遊びにきてください!」

岩畳や周りの木々に囲まれながら、大自然を満喫できるラインくだり。周りの景色を楽しみながら船頭の仕事にも想いを馳せてみると、より面白いひとときが過ごせるかもしれません。

◆2023年の長瀞ラインくだり営業期間は、3月10日(金)〜12月4日(月)です。

長瀞ラインくだりWebサイト
https://www.chichibu-railway.co.jp/nagatoro/boat.html

これを読んだあなたにオススメ

【リバーラブストーリー】うどんを食べて美化に貢献 “さくらうどん”新商品

環境と暮らしを守るエコ・クッキング

【リバーラブストーリー】志木市「カッパ伝説」を追え!~後編~