基本情報
水系 | 荒川水系 |
種別 | 一級河川 |
延長 | 4.5km |
流域面積 | 18.06㎢ |
「藤右衛門川(とうえもんがわ)」は、さいたま市と川口市を流れる一級河川で、荒川水系芝川の支流です。江戸時代、水田開発のために芝川までの排水路として作られた川で、工事を行った並木藤右衛門という人物にちなんで名づけられたと言われています。
長さは4.5kmと短い川ではありますが、その流れをよく見てみると、様々なドラマが詰め込まれているのです。
川が見えない…?
浦和駒場スタジアム付近から流れている藤右衛門川。地図を覗いてみると…川がない!?一体、どこに存在しているのか…。実は道路の下を流れていたのです。上流付近は「「暗渠(あんきょ)」という、地下に設けた水路となっています。現在は住宅地として整備されている藤右衛門川周辺ですが、かつては洪水に悩まされるエリアだったそうです。住民の暮らしを守るため、昭和56(1981)年に暗渠化工事が完成し、周辺には「藤右衛門川通り」という道もあります。
谷田の千本桜
さいたま市南区太田窪地区では、藤右衛門川を「谷田川(やたがわ)」と呼んだりもしています。同地区周辺はかつて地元有数のウナギの産地で、浦和宿の名物でした。そんな「谷田川」には昔、両岸に桜並木が植えられ、「谷田の千本桜」として親しまれていたそうです。しかし暗渠化工事に伴い、桜は残念ながら伐採されてしまいました。
ただ一部の木が「藤右衛門川通り」の付近にある「さくら通り」や、近隣の企業にも移植されて現存しているそうです。時期になったらぜひ散策してみてください。
藤右衛門川を渡るのは人だけではない!?
藤右衛門川の流れをよく見ると、ある施設を貫いていることが分かります。その施設は「浦和競馬場」。1948年に開場した歴史ある地方競馬場のひとつで、現在でも多くの来場者が訪れるさいたま市のレジャースポットです。
そのコース内に横串を刺す形で流れているのが藤右衛門川です。1~2コーナーと3~4コーナーの中間地点に流れており、特に3~4コーナーにはなんと橋がかかっています。
競走馬がゴールを目指して、一段と加速する場面で登場する橋越えの場面は、浦和競馬の風物詩としてファンからも愛されています。
浦和競馬場が果たす役割
浦和競馬場は非開催日になると、場内に入ることができ、ランニングを楽しむ方や親子連れなど、住民の憩いの場として愛されています。実際に流れる川の様子を見に行くと、不思議な光景を目にします。その名も「藤右衛門川排水機場」。排水機場とは、大雨などによる市街地や農地などへの水害を未然に防止するため、排水ポンプを運転して、雨水や生活排水などを河川に強制的に排水するための施設です。
実際、この排水機場が活躍した出来事がありました。それは2019年10月、全国に被害を及ぼした台風19号が関東に上陸した際、浦和競馬場内を流れる藤右衛門川が増水してしまいました。これ以上の増水は危険と判断した結果、内馬場に排水を行い、「調節池」として機能を発揮。結果的に地域に甚大な被害をもたらすことはありませんでした。
こうして浦和競馬場にできた「湖」のおかげで、いまも住民たちは安心して暮らすことができているのです。
川の長さは短いものの、流域で発揮する役割はとても大きいものがある藤右衛門川。普段は見ることのできない藤右衛門川の魅力を、ぜひ競馬場でも感じてみては。