横瀬川のウォーターパーク・シラヤマに初めてやって来たのは、まだまだ暑い8月の終わりの頃でした。夏休みだということもあって河原はバーベキューの家族や浮き輪で川を流れるように下ってゆく子どもたちで賑わっていました。思わず「いいところだなぁ〜」と声が出ました。水も冷たくて綺麗、そしていい感じに浅くて安全。こう言うのを「サラサラ流れている」と言うんだなって思いました。
 海の近く(神奈川県の大磯)に住んでいる僕に特に印象的だったのが、木陰で川の流れの中に椅子を置いて足を浸しながら読書をしているご夫婦。ゆったりと過ごされていて「なんて大人な過ごし方なんだろう」とちょっと(いえ、かなり)感動したのでした。海だとなんとなく「ハレ」っぽくなっちゃうんですけど、こんなふうに「ケ」の過ごし方ができるのも川の魅力だな〜と横瀬川に惚れた瞬間でした。

 おっと、この日は夏休みの川の過ごし方を見にきたわけではなく、横瀬川で石を積んだらどんな作品ができるのか調査に来たのです。サウナーの84Kenさんやタテノイトの繁ちゃん先生から横瀬川の魅力を色々聞いたらロックバランシングで何か楽しいことできないか?と我慢できなくなって。お二人に内緒でこっそりやって来たんです。

圏央道が出来てからは埼玉県へのアクセスが格段に良くなりました。東京の青梅まで1時間、一般道に降りてからも1時間弱で横瀬町に到着します。神奈川県内を移動する際も渋滞に捕まると2時間なんかでは目的地に到着できない事がよくありますから、それを考えるとほんとに近くなりましたね。
 そうそう、国道299号線で飯能を通り抜ける途中にもあちこち、川に親しめる場所があるのが分かります。さすが川の国。寄り道したい…そんな気持ちを抑えながらトンネルを抜けるともうすぐ横瀬町です。
 おぉ、あれは武甲山ではありませんか。堂々とそびえていて格好いいなぁ。そして札所の案内看板も見えます。歴史ある秩父に僕は足を踏み入れたんですね(クルマだからよそ見できないけど)。
 そして初めのシーンに戻るわけです。はい石積みに来たんです。それが上の写真です。

 ウォーターパーク・シラヤマの横瀬川に転がる石ころは実に色彩豊か。河原の石はその周辺にある岩盤が生みの親でもありますが(古い地層も見えてますよね)、その上流域から長い年数をかけて砕け、転がってくる石も多いんです。それにかっこいい武甲山!あの山は石灰岩ですよね。その元になっているのは珊瑚です。珊瑚ということはこのエリアが昔々は海底だったということ。化石が大好きな友人はよく「地球を自分の時間軸で測っちゃダメですよ」と言っています。そう、東日本が形成されたのは数百万年前のこと。すうひゃくまんねんまえ…まだ江戸時代が終わってから150年ですもん…ぜ〜んぜん想像できないですよね。

そんな地球の歴史を感じさせる石ころがたくさんある横瀬川。今回は目的がふたつありました。そのひとつがいつも通りの現地で出会った一期一会の石たちを積み上げ写真に撮ること。
 もうひとつが、石をちょっとお借りして持ち帰り、洗浄、乾燥してからそれを再現して県の川イベントで遊べる挑戦キットを作ることでした。
 そうそう、むかしむかし海底だったことを教えてくれるカチカチで、ハンマーで叩いても割れてくれないチャートという生き物の骨格が降り積もって固まった石もここにはたくさんあります。印象的な赤いチャートを集めてそれだけで作品を作ってみました。チャートだけの石積み、実は難しいです。なぜならカチカチのツルツルなのですぐに滑り落ちようとするからです。石を不思議な形に積み上げるにはいくつかの条件が必要なんですが、その中の大切なひとつが摩擦力なんですね。見えないような石と石の小さな接点にも摩擦がないと難しくなります。積みながらバランスを崩すと、もう一瞬でガチャガチャって壊れます、すごい勢いで。何しろ摩擦が効きませんから。でもね大人になったらムズカシイコトにも挑戦しないといけない時があるんです。そして多少の摩擦は人生に必要なスパイスなんです。さて頑張ること30分、ようやくこの形になりました。右側は飾りのような橋掛かりになってますが、コロナ禍になってから単独での表現より複数のものが繋がったり寄りかかったりすることを作品として意識するようになりました。

次も同じパターンの寄りかかる系ですが、今度は緑の石たちで作りました。ここの石だけでも茶、赤、緑、灰色と幾つもの種類があります。もっとこうしたい〜とか思う時もあるのですが石を加工しない一期一会の石積みでは思い通りにならないこともたくさんあります。それもまた石積み道なのです。


 さてこの辺からは石積み(ロックバランシング)が気になっている人へのアドバイスを書きましょうね。リバサポの方にお届けしたロックバランシングの挑戦キットを作ったのでその写真を見てください。インターネットや雑誌、テレビでも最近は見かけますよね。僕が始めた9年前はやっている人もほとんどいなくて、熱心にやっている日本人は片手で数えるくらいでした。いや今でもそんなに増えて…ないかも。でもヘンタ…いえ、多様性の時代ですからね!
 そうそう、やってみたけどうまく出来ませんでした〜という人のデキナイワケを聞いてみると案外同じ原因が見えてきます。
 その1 最終形をまったくイメージしていない(やりながらヒラメクのは有りですけど)
 その2 石の形や手触り(石を積むために必要な凸凹)をしっかり意識していない
 その3 とりあえず手に取って無造作に乗せてしまう
 その4 片手で積む
こんな感じですね、石積みなんてできないよ〜民のみなさんは。
 さあこれを反面教師にして挑戦キット(写真)を眺めてみましょう。河原で気になった石ころたちをこのまま机にしまっておいても綺麗ですけどせっかくなので大(?)舞台に立たせてあげましょう。

同じ石ころでもずいぶん雰囲気が違います。どれが良いとかではありません。積んでいる人が楽しいか、ドキドキするか、なんてところが大切です。石が不思議な形で止まった時に自分の中で起きる変化を感じてくださいね。それこそがロックバランシングの醍醐味です。そしてこれは厳選した石たちではありません。河原に降りて目についただけの石です。でもひょっとしたら石から選ばされているのかもしれませんね?無限にある石の中で目に付く(気になる)何かがあるんですから。さらに何か手を加えたり、お金をたくさん払ったりせず、目の前にあるふだん目にも留めないようなものがあなたの人生に楽しみを与えてくれたりする…そんなことに気づいてもらえると嬉しいです。

 などと禅問答のようなことを言いながらも、実は僕の中でいくつかルールがあるんです。拾うときのルール…と言うか、より美しい石積みにするためのルール(本当は内緒ですけど)。それはこんな感じです。
 その1 「色合いが異なる石を集める」
     ※ここではあえて同じ色合いにしましたけど(だって石灰岩の町ですし)
 その2 「大きさ、厚み、形の異なるものを集める」
 その3 「拾いながら石が乗る小さなくぼみや接点を確認する」
 その4 「可能なら最終形のトップを飾る石は拾いながら決めておく」

 さあ拾った石をどう積みましょうか?初心者なのに最終形なんてイメージわかない?そうですか。そうしたら上の写真左上のようにピラミッド型に積んでみて下さい。それだって石の選び方によっては難しいです。そうそう片手でやらずに両手でやるんですよね。包み込むようなイメージで。石たちがどちらに倒れたがっているかを手のひらや指で感じてくださいね。そしてその倒れたがっている反対方向に石の軸を傾けたり少しづつ回したりして安定する場所を探してあげてください。ここでは石の小さな凸凹がカギを握ってます。難しいなぁと思ったら、石を指で触って確認してみて下さい。ずらしたり、回したり、持ち上げて移動したりといろんなアプローチがありますよ。答えは一つだけではありませんからね。
 さあピラミッド型に積めたら…これで終わりではありません。見本写真の上段では上の石の順番を入れ替えてますよね。さあこれからが長い旅の始まりです。でも忙しい現代人は自由な時間がなかなか取れません。そんな忙しい生活の中に石が4つあるだけで気分転換ができるのは素敵じゃないですか?石が小さな音を立てて止まってくれた瞬間、自分の中に静寂が広がるの感じてくださいね。
 川の国なら石ころがいくらでもあります。その意味では都会人は可哀想です。だって石ころなんて身の回りどこにも転がってないですから。川があっても護岸工事されてますし、または暗渠となって見えなくなっています。なのではるか上流にまで出かけないと石ころに出会えません。横瀬川だけでも都会人から見れば幸せ(癒し)の塊いや聖地です。

 話があちこち行ってしまいますが、それくらい石積み、ロックバランシングは思考が多岐に渡る楽しい遊びです。僕もお仕事でマネージャー(管理職)だったこともありますが、まさしくチーム作りは石積みと同じです。ご縁があって出会った石ころの素材や成り立ち、形状をよーく理解して最大限美しいチーム作品に仕上げて成果を出すのがマネージャーの仕事。「さあ、とりあえず素材は揃ったから写真5の左上のように積んでおしまい」にするんですか?ってことなんですね。もっと目の前の石ころの素敵な面を見つけ、素敵な時間を一緒に過ごすことができますよね。

 家に石を持ち帰ったら綺麗に石鹸とタワシで洗って下さいね。あとは出会った石たちとどんな形、作品にするのかは…あなたと石たち次第なのです。

 そんなロックバランシングのワークショップが22年11月に開催されました。レポートはこちらからご覧ください。

 さて長くなってしまいました。魅力たっぷりの川の国 埼玉 最高です!いつか河原でお会いしましょう!

この記事を書いた人

かねき のぶひろ

足元に転がる石で不思議な風景をつくるロックバランサー

SNSでも作品を発表しており海外のファンも多い

湘南エリアで発行されているフリーペーパー「海の近く」にコラム掲載中

かねきのぶひろさんの作品や活動はこちら
note:https://note.com/kaneki/

Instagram:https://www.instagram.com/kaneki_nobuhiro/

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