氷川神社蛍池カワニナ調査について

氷川神社周辺地域はかつて、ホタルの名所として名を馳せ、元徳川御三家紀州家にホタルを献上していたほどのホタルの生息地でした。今でもホタル観賞会を実施していますが、残念ながらホタルは他地域から取り寄せたもの。
そこで、「氷川ほたるの会」が中心となり、氷川神社敷地内に蛍池を造成し、自然循環による自生ホタル復活プロジェクトを立ち上げ活動をしています。ホタルが生息するためにまず大切なのがエサであるカワニナ。ホタル復活プロジェクトの一環として実施された、蛍池でのカワニナ調査についてご説明いたします。

1.ゲンジボタルが生きて行くためには、どのくらいのカワニナが必要か?

一般的にホタルの幼虫が成虫になるまでに食べるカワニナの数は22匹。
でも、途中で死んでしまうホタルの幼虫が食べる分などを計算するとホタル1匹当たり66匹~110匹程度のカワニナが必要となります。そして、狭い場所に数匹のホタルがいるだけでは、安定した生息環境とは、言えませんので以下のような数字が1つの目安として考えられます。

○目安:安定した生息環境
生息面積:目安330㎡~550㎡
ゲンジボタル:目安100匹程度
カワニナ:目安6600~11,000匹
     20~30匹/1㎡当

ところが、蛍池の広さは、100㎡程度。
この広さでホタルの自生環境を創生できるかどうかも今プロジェクトのチャレンジと言えます。それを踏まえて、蛍池での目安が以下となります。

〇目安:蛍池
生息面積:約100㎡
ゲンジボタル:目安30匹程度
カワニナ:目安2000~3000匹
     20~30匹/1㎡当

上記を踏まえた上で、カワニナの生息数を調査しました。

2.カワニナ調査の結果

今回の氷川神社蛍池のカワニナ調査では、コドラート法を用いて、夏と冬の2回、カワニナとカワニナ以外の生き物の個体数を調査しました。
コドラート調査とは、下記のように池全体ではなく、一定の枠を使用し、数か所からサンプル採取し、目安の生息数を導き出す調査方法です。

(1)2022年8月6日調査結果
調査法:0.85mコドラート法(3か所)

カワニナ(<10mm)14タニシ類(<5mm)9
 〃  (<15mm)10 〃  (<20mm)4
 〃  (<20mm)17タニシ類計13
 〃  (<25mm)110
 〃  (<30mm)25エビ類19
 〃  (>30mm)7アメリカザリガニ2
カワニナ計84モツゴ2
2.2㎡当り84匹 1㎡当り38匹

(2)2022年12月17日調査結果
調査法:0.85mコドラート法(3か所)

カワニナ(<10mm)0タニシ類(<5mm)
 〃  (<15mm)3 〃  (<20mm)
 〃  (<20mm)8タニシ類計2
 〃  (<25mm)110
 〃  (<30mm)12エビ類26
 〃  (>30mm)4アメリカザリガニ17
カワニナ計38モツゴ3
2.2㎡当り38匹 1㎡当り17匹

3.自生ゲンジボタル復活に向けての今後の取組提案

今回の調査結果を見てみると、
8月:38匹/1㎡当、12月:17匹/1㎡当
となっており、8月に関しては、目安の20~30匹/1㎡当を上回っているので、大きな可能性を感じることができますが、水温が下がる12月は、目安を下回っています。ホタルの幼虫も水温が下がることで生息数が減りますので、減少を防ぐためには、エサであるカワニナにも年間通じて安定した生息数が求められます。
今後、より効率的に自生ゲンジボタルの復活プロジェクトを行う上で、今回の調査を踏まえて、以下のような取組が必要と考えられます。

(1)調査強化による正確な個体数データ収集
より正確なデータを取得することにより、計画性のある活動を行うことができます。そのためには、カワニナ調査を実施する上で以下3点を踏まえた上で調査を実施する必要が考えられます。

 ①水温計測
カワニナは水温が一定より下がることで死亡率が上がり、繁殖数は減りますので、カワニナ調査をする場合、水温はとても大切なデータとなりますので、水温計測が必要と思われます。

 ②調査個所の増加
今回のコドラート調査では、3か所での調査でしたが、より精度の高いデータ収集には、調査個所を増やす必要があります。カワニナが集まりやすい岸辺の浅い場所、水取水口だけではなく、まんべんなく調査する必要があると考えられます。

 ③調査回数の増加
今回の調査は、夏冬の2回でしたが、春や秋など季節ごとに調査することにより、より正確なデータ収集ができると考えられます。

(2)タンパク質含有のエサの給餌
カワニナの繁殖に必要なの物の一つが、タンパク質と言われています。カワニナにタンパク質の少ないキャベツなどの葉物野菜をあたえると、よく食べますが、繁殖のためには、タンパク質が必要と言われています。
また、水温が低下する冬場のカワニナ死亡率の上昇の原因の一つがエサ不足ですので、タンパク質含有のエサを与えることで、安定した生息数実現の一助になると考えられます。
ただし、やみくもな給餌は水質汚染を引き起こす可能性があるので、より正確なカワニナ生息数を踏まえた上で、給餌量を決め実施する必要があります。そのためにも正確性の高い個体数調査が必要となります。

(3)アメリカザリガニの除去
今回の調査で気になったのが、アメリカザリガニの存在です。ご存知の通り、雑食性で何でも食べます。カワニナだけでなく、ホタルの幼虫なども食べられてしまう可能性がありますので、アメリカザリガニの除去も必要と考えられます。

Ⅱ カワニナの繁殖飼育実験 
埼玉県環境科学国際センター 水環境担当部長 木持先生インタビュー

1.埼玉県環境科学国際センターのカワニナ繁殖飼育実験について

埼玉県内だけでなく、全国的に色々な場所で行われている「ホタルの保護活動」。やはりホタルは、ピカピカときれいですし、きれいな水辺のシンボルとして多くの人に愛されています。
そこで、今回は、埼玉県環境科学国際センターで、行われているゲンジボタルのエサであるカワニナの効率的・安定的に増やすための実験についてご紹介いたします。

2.カワニナの繁殖飼育実験を行っている木持謙(ゆずる)先生

埼玉県環境科学国際センター水環境担当
学歴: 筑波大学農学研究科、博士(学術)
職歴及び主な研究内容:
茨城県科学技術振興財団 研究員を経て、平成12年4月から埼玉県環境科学国際センター研究員
専門分野:
 ・生活排水処理
 ・河川浄化
 ・環境DNA分析を活用した水生生物保全

埼玉県川のおさかな環境DNAマップ
https://cessgis.maps.arcgis.com/apps/webappviewer/index.html?id=4c6566941e3d4245bbf28c03b887b0c0

3.どうしてカワニナの飼育実験を行おうと思ったのですか?

県内のホタル保護を行っている方々からのご相談もいくつか伺うようになり、埼玉県環境アドバイザーの方などと相談したところ、まずはゲンジボタルのエサであるカワニナの繁殖飼育についてあまり知られていないという事を教えてもらいました。
そこで、効率的・安定的なカワニナ繁殖飼育方法を目的とした実験を開始しました。

4.カワニナの飼育環境はどのようなものですか?

カワニナの飼育は、それほど難しいものではありません。
でも気を付けることがあります。それは、水温と水槽に見合った個体数。そしてエサです。エサは、葉物野菜を使用する方をよくお伺いしますが、カワニナの繁殖にはタンパク質が必要です。自然の中では石に付着したタンパク質のある藻類など食べていますが、飼育下ではそれを大量に用意して与えるのは、難しいのが現状。
そこで、魚用のエサを使用することをおすすめします。

◆実験環境

(1)水槽の大きさ
   30㎝水槽
(2)水温
   22~23℃ 
(3)飼っている数
   1つの水槽に15個体×2水槽 
(4)酸素供給方法
   エアポンプを使用
(5)水量
   8リットル
(6)エサ
   コイ・金魚用沈降性ペレット(約20㎎/粒)を2日に5~6粒

5.カワニナのエサについて聞かせていただいてよろしいですか?

カワニナのエサ

カワニナが直接食べるエサとしては、溶けにくく、沈むエサが良いと考え、今回は、手に入りやすい「コイ・金魚用沈降性ペレット」を使用しました。また、熱帯魚用のプレコフードでも良いと思います。
現在はありませんが、今後は、カワニナ用のエサなんて言うのもあったら、喜ばれる方も多いのではないでしょうか?
特にホタル保護活動を行っている地域や学校などで、カワニナ飼育に取り組みたいというお話も良く聞きますので。

6.カワニナは、どれくらいで子どもを産みましたか?

水槽側面に吸着した産仔状況

今回の飼育実験では、開始2日目つまり、エサを与えた次の日には、エサはすべてなくなっていました。
そしてなんと飼育6日目にはたくさんの仔貝が観察できました。その数50個体以上。
水槽の側面ガラスに吸着していました。
あくまで、今回の実験結果ですが、比較的簡単に仔貝が産まれたことには驚きましたし、これならば、多くの人が繁殖を行えるとも思いました。

7.今後の課題はなんですか?

石上の仔貝の様子

今後の課題としては、産まれたばかりの仔貝は、とても小さく移動する力も弱いので、エサとの遭遇率を上げる工夫ができれば、もっと効率よく飼育ができるようになると考えています。
例えば、すでに付着藻類等(生物膜)がついている石等を水槽に置いたところ、仔貝は石表面に発生した生物膜の上を移動しており、エサを食べている可能性があると思われます。
このような所から、繁殖目的では、水槽側面等に発生する生物膜を積極的に活用することも一つのポイントだと考えられます。

Ⅲ 冬の間だけカワニナを飼って、春に戻すホタル保護活動というカタチ。

生きものが生きていくのに必要なものは、「たべもの」と「すみか」。
今回は、主にゲンジボタルのたべものである「カワニナ飼育」の話をさせていただきました。
実は、カワニナは1匹のメスが沢山の子どもを産むのですが、生き残るのは、ほんの一部。そして、一番死んでしまう可能性が高いのは、寒い冬の時期です。
そこで、ある地域では、寒くなり始める10月頃にカワニナを採取して、温かい水槽の中でタンパク質の入った餌を与えてカワニナを増やし、春になったら基の場所にもどすという活動をしています。
一見難しそうに思えるカワニナの飼育ですが、きちんとしたやり方を行えば、わりあい簡単にできます。
もし近くにカワニナがすんでいるようでしたら、チャレンジするのも面白いと思います。
カワニナを飼って増やして、元の場所に戻す活動は、立派な「ホタル保護活動」「川の保全活動」なのですから。

長谷川 雅彦

埼玉県在住。東京農業大学卒 埼玉県環境アドバイザー

2003年よりファーブル先生として昆虫の面白さ、不思議さ、命の大切さを中心に多くの親子を中心に伝える、ファーブル昆虫教室を実施。通算約10,000名以上の親子が参加をしている。

ファーブルお兄さんの信念は、「子供たちのなぜどうしてに最後まで付き合う事」

日々、子供たちと自然の中で接しながら子供たちの好奇心を発揮することをライフワークとしている。

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