祈願のため左目に黒目を書き、成就すると右にも黒目を書く「目入れだるま」の風習や、「だるまさんがころんだ」といった遊びもある、私たちに身近な「だるま」。埼玉県内には伝統工芸品となっている「越谷だるま」もあるんです。
そんなだるまが川の国・埼玉の川に浮いていたら、何ともほほえましいと思いませんか。
「浮き上がりだるま」みーつけた!
見つけました。浮き上がるだるまを。山田るまさん――。だるまが好き過ぎて、とうとうだるまのマスコットになってしまった人です。全日本だるま研究会の会員で、研究会の公式キャラクターでもあります。さらに、国土交通省と河川財団子どもの水辺サポートセンターのライフジャケット着用キャンペーン「ライジャケ・オン」のイメージキャラを務めています。
商売繁盛、家内安全、開運などさまざまな願いをかけて片方に目を入れる願かけだるま。その姿を模した赤い着ぐるみがふくよかで、とってもかわいい。顔の黒い模様はひげでしょうか、まゆでしょうか。お腹には「福」の文字が描かれています。
でも、よくあるご当地マスコットとは一線を画します。だって、本人の顔が見えているし、しゃべっちゃう。オリジナル曲も歌っているし、おまけに食べるのも大好きです。そもそもマスコットは幸運を呼ぶお守りの意味ですから、るまさんは福だるまのお守り的キャラクター。だるま史上最強の縁起物です。
遊ぶなら、川を知らないといけません
「ぷかぷか浮いて、川の流れに身を任せると最高に気持ちいいですよ。でもね、自然の中で遊ぶには自然を知らないといけません。川の流れは常に変化しています。穏やかに見えても急に深くなる所や滑りやすい所もあります。油断は禁物、川の事故の約90%は穏やかな流れや浅瀬で発生しているんです」。ライフジャケットを身に着けたるまさんの笑顔が引き締まります。
警察庁生活安全局が昨年9月まとめた「令和4年夏期における水難の概況」によれば、7~8月の水難者数は全国で638人。過去5年間で最多となりました。水難者の18.8%、120人が中学生以下でした。県内の発生件数は9件。水難者は11人で、7人が亡くなっています。
「川遊びするときにはライフジャケットを着用してほしいです。子どもも、大人もです。子ども用には股下ベルトがあるタイプがお勧め。ライフジャケットは前面の浮力が大きく、仰向けに浮くようにできていて、水面でも呼吸ができます。ヘルメットを被って頭を守り、脱げにくいサンダルや運動靴などを履いて足を守ります。体温を奪われないように水着などの乾きやすい服装で遊んでね」。
ライフジャケット 浮いて知る安心感
るまさんの左肩に見慣れない刺しゅうワッペンがついています。「山田るま」の名札に縫いつけられたそれには「SWIFTWATER FIRST RESPONDER」の文字。世界最大のネットワークを持つ民間トレーニング組織「RESCUE3」の急流救助プログラムを受講した国際認定証です。
「安全に楽しく川で遊ぼうと皆さんに伝えるのだから、正しい知識を勉強したいと思って。受講したのは、水辺で救助活動するすべての人が対象のプログラムで、川のことや救助の基礎を学びました」。さすがは、ライフジャケットを着た浮き上がりだるま。るまさんは水難事故防止の最高のマスコット、お守りかも知れません。
るまさんは、着ぐるみ姿でライフジャケットを身に着けて本当に川で遊んじゃいます。水辺のイベントで子どもたちと一緒に川遊びを楽しんだり、川流れを体験したり…。かわいい着ぐるみはもちろんびしょぬれ、ずっしりと重くなるそうです。
「体が大きい分、浮力はあると思ってはいたんです。でも、着ぐるみ姿で初めて川に入ったときは不安でした。ぬれたら重くなってどうなるか分かりません。ライフジャケットを着ていても、そもそも浮くかどうか。そしたら浮いたんです」。
るまさんには、実際に川で遊んで分かったことがあるそうです。「大切なのは、浮くという体験です。知識や理屈で知る安心感と、体感して分かる安心感は違います。浮くという安心感を体が覚えていれば、万一のときにも慌てずに、浮いて救助を待てるかもしれません。本格的な川遊びの季節がやってきます。楽しく安全に川を楽しむために、多くの人に浮く体験してほしいと思います」。
もし、「ライジャケ」がなかったら…
「でもね」と、るまさんが続けます。実は、ライフジャケットを着けずに川に入った経験は一度もないそうです。だるまの着ぐるみが服なのであれば、小学校の水泳教室などで行われている「着衣水泳」です。果たしてライフジャケットを着けていなくても、るまさんは浮くのでしょうか。次回は、着衣水泳に挑戦したるまさんを紹介します。
そういえば、ぬれた着ぐるみはどうしているのでしょう。「もちろん自宅で洗濯します」。やっぱり服なんですね。