(1)時代を超えて多くの人を魅了するホタル

さまざまな人々を魅了してやまない「ホタル」。
昆虫嫌いの女性は少なくないですが、このホタルだけは、別物。
ホタル観賞会には多くの女性も訪れます。
暗闇の中を幻想的に舞う姿が多くの感動を呼んでいるのでしょうね。
そして、夏になるとホタル観賞会は様々な所で開かれます。

しかし、ホタルがその場所に根付かず、毎年放っている所も多くあるのも事実。
理由はいくつもありますが、その一つがエサであるカワニナが十分にいないという事と言われています。

(2)水がきれいすぎても、汚すぎてもホタルはすめない

綺麗な水辺にすむイメージのホタル。
もちろんある程度きれいなところではないと生息できません。きれいな川を取り戻すことがホタルの生息に向けた第一歩なのは言うまでもありません。ところが、驚くことに、水がきれいすぎてもホタルはすむことができないのです。
ちなみに、わかりやすいという意味で究極にきれいな水は水道水。

生き物がすむには、水の栄養素(=人間にとっては”よごれ”の場合もあり)がある程度必要です。
ゲンジホタルやヘイケボタルは、山奥の清流では生息できず、人の営みのある里山に生息しています。
人間の都合で田んぼを作り、水路を作り、雑木林を作った場所がたまたま、「ホタル」に都合が良かった。「人とホタルの共生」というと難しいですが、元々はお互いの都合がマッチングした結果なのです。

もちろん私たちは、70年以上前の生活に戻すことは、難しいです。でも21世紀型の「人とホタルの共生」の関係を築けたらうれしいなと思います。

(3)ゲンジボタルを生息させるには、まずエサのカワニナが必要

ここで問題です。宇宙ステーションに10人います。5人分の食料・水が1年分あります。お互い殺し合いはしません。帰還は1年後。何人生き残りますか?

答えは、ゼロです。5人分の量があるからと言って、5人生き残れません。10人が5人×1年分の食料を食べていくと、半年ですべて食べ尽くします。残り半年は食料・水がまったく残っていない状態ですので、おそらく誰も生き残れません。

ここからホタルの話にもどります。

毎年ホタルを放ちホタル観賞会を開いても、ホタルが根付かず、毎年放っているというケースをよく聞きます。
そのような場所にも、カワニナが生息していたり、カワニナも放流しているという所もあります。

しかしホタルが根付くには、ホタル100匹に20,000~30,000のカワニナが必要となります。カワニナの量は、死んでいくホタルの幼虫が捕食する量も含まれています。そのためカワニナを放流しても十分にいきわたっていない所が多いのも事実です。

宇宙ステーションの話を思い出してみてください。カワニナがいるだけでは十分ではなく、ホタルの数に対して必要な数のカワニナが生息している環境でないと、ホタルが成虫になる前にカワニナを食べ尽くしてしまうことになります。そのようなことから翌年ホタルが生き残れず、放流を繰り返さなければならないのです。

ホタルの保護活動が全国で数多く行われていますが、まずはカワニナの生息環境を整えるのがとても重要なのです。

(4)カワニナの繁殖には葉物野菜だけでは難しい。実はタンパク質が必要。

全国のホタル生息地を訪ねると水路にカワニナのエサとしてキャベツや白菜がおいてある光景をよく見かけます。カワニナの食性は植物性なので葉物野菜を良く食べますし、水路に沈んだ葉物野菜を見るとカワニナがびっしりとくっついていることも良くあります。

でも実はこれだけでは、効率的な繁殖をカワニナはすることができません。
効率的な繁殖に必要になるのが植物性のタンパク質なのです。
残念ながら葉物野菜にはあまりタンパク質が含まれていませんので、難しいのです。

ちなみにカワニナは川の石や底に生える藻のようなものを食べますが、これには、タンパク質が含まれています。飼育下では、タンパク質を配合してある魚のエサがおすすめです。

水温10℃以下 活動がにぶくなる
水温15~16℃ 子どもを産むのが活発化

(5)カワニナが一番子どもを産むのは、水温15~16℃前後

カワニナの出産は、卵胎生。
卵胎生とは、卵で生まれて、母親の体から出てくる姿が、卵ではなく親と同じ貝の形。
そこには、産仔と産出という過程を経ます。
産出とは、卵を体の中に産むこと。
産仔は、その卵が孵り、母親の体の外に出てくることです。

そして産仔が活発化する水温が15~16℃と言われています。
ちなみに水温10℃を下回ると、活動がとても鈍くなりあまり動かなくなってしまいます。 そのようなことから、湧水などで1年中水温が安定している所は、カワニナが生息しやすい環境なのです。

(6)ホタルを持続的に生息させるには、まずカワニナ生息・水質調査からはじめましょう

さて、ここまでお読みいただくと、「ホタルを生息させるには、カワニナを放流してタンパク質配合のエサをあげればよいのですね!?」と思われるかもしれませんが、その前にやることがあります。

それがカワニナの生息調査と水質調査です。

放流・餌付けをいきなりはじめても、生息に適していなかったり、最悪の場合水質汚染を引き起こすことがあります。せっかくの活動が川を汚すことになってしまったのでは元も子もありません。
そのようなことからまずは、どの時期にどの場所にどれくらいのカワニナが生息しているか?そのすんでいる水質や水温は、生息に適しているか?を知る必要があります。

もちろん独自で行われても良いですが専門家の方にアドバイスをもらった方がスムーズに行くと思います。
まずは自治体等に、専門家の紹介も含めて相談することをおすすめします。

ホタルが自生できる適度な栄養素がありつつ、人々には安らぎを与えてくれるきれいな水辺。そんな環境を作り出す21世紀型の「人とホタルの共生」について、みなさんも身近にできることから取り組んでいきましょう。

この記事を書いた人

長谷川 雅彦

埼玉県在住。東京農業大学卒 埼玉県環境アドバイザー

2003年よりファーブル先生として昆虫の面白さ、不思議さ、命の大切さを中心に多くの親子を中心に伝える、ファーブル昆虫教室を実施。通算約10,000名以上の親子が参加をしている。

ファーブルお兄さんの信念は、「子供たちのなぜどうしてに最後まで付き合う事」

日々、子供たちと自然の中で接しながら子供たちの好奇心を発揮することをライフワークとしている。

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