指をすっと伸ばすと、きれいな持ち方になる

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般若山法性寺(埼玉県小鹿野町)から荒川の支流・般若川に沿って走り、秩父市にやって来ました。荒川に近い中村町1丁目に、浅見箸製作所があります。苦を抜き去り楽になる、という縁起の良いクヌギの箸を作るのは、浅見知司さんです。1943年生まれ。高校卒業と同時に見習いになったそうですから、箸作り60年以上の熟練職人です。

箸の製作は、先代の父が始めました。「これからは箸屋だ」と、納豆屋から突然転身。職人を連れてきて創業したそうです。漆を塗る前の、箸の原型「木地」を作るのが専門で、最盛期には全国に販売していました。木地に漆を塗り重ねては研ぎ、色とりどりの変化に富んだ模様を生み出す美しい津軽塗の箸。昭和30年代には、その木地の8割を占めるほどだったと言います。

バブル景気が崩壊したころから箸作りの機械化が進み、職人が作る木地が売れなくなったそうです。「自分だけの箸を作ろう、使いやすさと手持ち感の良さを大切にしたいと考えるようになった」。浅見さんが追い求める使いやすさは、箸先にあります。「箸で食べ物を口へ運ぶ。箸も口に入って、舌や唇に必ず触れる。そのときの感触、感覚が大事。だから、箸先に溝を刻んで滑り止めをつけることはしない。口当たりが良くないから」。

箸職人・浅見知司さん

木が動く「苦抜き」。本当に箸を作れるのかと思った

淺見さんが使うのは、主に秩父連峰で育つ木。秩父連峰には荒川の源流があります。豊かな山の森林は、川の水源になっています。豊かな森林には、水をためて、きれいにする働きがあります。豊かな森林を保つには間伐などの手入れが必要で、山の木を使うことが、川の保全につながっているのです。

浅見さんはこれまでに様々な種類の木を試し、今はクヌギとオノオレカンバを主に使っています。「クヌギは面白い。製材すると曲がったりよじれたりして、よく動く。最初は、こんな木で本当に箸が作れるのかと思ったけどね」。クヌギは「苦抜き」に通じる、という法性寺のご住職の発案に背中を押され、作り始めたそうです。以来、人気は上々とか。

オノオレカンバはシラカバの仲間。シラカバは柔らかい木ですが、オノオレカンバは斧が折れるほど硬くて重いそうです。「水に入れると沈むんだよ。硬くて重い箸には安心感がある」と話します。暖かい地方の人は軽い箸を好み、寒い地方では重い箸が好まれるとか。「手がかじかんでも、重い箸ならしっかり持てる。雲水(うんすい)箸は、凍えるような冬場でも修行僧が使いやすいようにと、特別太くて重く作ってある」。

浅見さんが作る箸の先端は、丸くありません。まっすぐで四角、先端をぷつっと切った形にこだわっています。「角があるから食べ物をきっちり挟める。先端が丸いと滑りやすいし、細いと使いにくい。適度な太さも大事だね」。

時代とともに箸の形やデザインは変わってきたそうですが、「自分が作った箸は見分けがつくよ」と、浅見さんは言います。「寸胴(ずんどう)、砲弾型、太い箸が昔は好まれた。先端がぎゅっと細くなっていて擦り減らず、長持ちしたからだと思う」。先端に向かって描く孤の形が、職人によって、時代によって変わるとか。箸を揃えた時に、先端がぴたっと合うのは「安心できない、きれいじゃない」とこだわります。

グラインダーで削り、形を整えていく

箸を持つ役者の手元が気になる

「テレビでドラマを見ていると、箸を持つ役者の手元が気になる」と話す浅見さん。頼まれて小学校や公民館などで「箸作り教室」を続けてきました。東京都内の小学校へ出かけることもあったそうです。気になったのは、箸の持ち方を習う時間の短さ。「6年間でわずか20分ほど。鉛筆を持つように上の箸を持ち、その下にもう一方を入れて親指の付け根と薬指で支えるといった教わり方が一般的だった」。

浅見さんは、箸作り教室で箸の持ち方も教えています。箸の使い方は、箸先一寸(はしさきいっすん)、箸先の3センチ(1寸)ほどのところを使って食べるのが基本とか。

まず下の箸をしっかり持つように、と勧めます。「親指の付け根と薬指の爪の先端で固定すると、指先がすっと伸びて、きれいに見える」。そこに、上の箸を添えて持ちます。「箸の間隔を2~3センチあけると使い勝手が良く、挟んだ食べ物が逃げにくくなる」。確かにきれいに見えます、指が伸びていると。ぜひ、お試しを。意外にぎこちなくて、自分流の持ち方をしていることに気づかされるかもしれません。

〈箸作り体験〉随時受付、電話で申し込む(平日10時~15時)。小学3年生以上で、体験時間は1~2時間程度。料金は材料費込みで1650円(税込)。作った箸1膳を持ち帰れる。

【浅見箸製作所】
埼玉県秩父市中村町1丁目3-7 
電話0494(22)3281
https://hashiya.ocnk.net/

荒川の支流、大血川水系の水を使用した「イチローズモルト」の樽で作った箸も製造販売している。川と箸が意外なところでつながっている。

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