川の国・埼玉には、川を愛し川にまつわる活動に取り組むたくさんのプレイヤーたちがいます。本記事では、そんな川を知り尽くす「リバープレイヤーズ」の熱い想いや貴重な知見、そこから見据える未来などについて紐解いていきます。

記念すべき1人目のリバープレイヤーは、NPO法人「草加パドラーズ」の代表理事、中島清治さん。草加市を拠点に、綾瀬川のゴミ拾い活動やカヌー体験会開催などに取り組んでいます。8年前にこの活動をはじめた発起人であり、草加市カヌー協会理事長、写真ミニ博物館館長、草加ペンクラブ会長も務める、非常に活動的な方です。

草加パドラーズ会長・木村さんも「他の人が無理だと思うようなことも、どうにか道を切り拓いてくれる人。人一倍、信念を行動に移す力が強い。だからずっと活動が続いているし、人も集まってくれる」と慕う人物。

そんな中島さんに、なぜふるさとの草加で綾瀬川に関わる活動を始めたのか、そのきっかけや貫いてきた信念について、お話をうかがいました。

カヌーに乗った132人のヒーローたち

まだ暑さが残る2022年9月の午前8時。まつばら綾瀬川公園の南口、綾瀬川のほとりに中島さんの姿がありました。

「おはようございます!今日はどうぞよろしくお願いします。いやあ、実は昨日ものすごい量のゴミが流れてましてね。どうにかひとまとめにしたんですが、あまりの多さにまだ片づけが追いついてないんですよ!」

リバサポの帽子をかぶり、ハツラツと挨拶をしてくれた中島さん。目線の先には、船着き場付近に溜められた大量のゴミがありました。中には冷蔵庫の姿も見えます。

大きな塊の状態で綾瀬川を浮遊していたというゴミたち。

中島さんたちが率いる草加パドラーズは、会員132名(2022年9月現在)のNPO法人。水・土・日曜日を基本に、その日集まれるメンバーでカヌーに乗りながら綾瀬川の清掃活動を行っています。

「5歳から87歳まで、老若男女問わずいろんな方が賛同し、一緒に活動してくれています。活動日数は年間150日。これを8年間ずっと続けているわけです。他に子どもたちがカヌーに親しめる体験会なども実施していますよ。最初はみんな恐る恐るやり始めるけど、川から上がる頃には『楽しかったです!また来ます!』と笑顔で言ってくれる。こういう声がたまらないね」

中島さんはこの清掃活動やイベントにはすべてに出席し、先頭に立って会員の皆さんを引っ張っています。

きっかけは「名勝」への指定

そもそも草加パドラーズは、どのような経緯で発足したのでしょうか。中島さんはこう答えます。

「8年前に『草加松原』が国の名勝に指定されたのがきっかけ。宿場町として栄えたここ草加は、松尾芭蕉さんの『おくのほそ道』にも登場します。この美しい松並木と綾瀬川の風景が松尾芭蕉さんの心に残っていたから、その一節に『其日漸草加と云宿にたどり着にけり』と記したわけですよ。そんな歴史ある草加を、子どもたちに誇れる文化的なまちにしていこう。そう思いました」

国指定名勝「草加松原」は、約1.5kmにおよぶ松並木。江戸時代から日光街道の名所として知られていました。中島さん自身、草加市立歴史民俗資料館の嘱託(当時の館長職)を務めた経験もあることから、名勝指定にあたっての文化庁調査にも協力したと言います。

「でも、その隣を流れる綾瀬川はごみだらけで悪臭を放っていましてね。名勝の名にふさわしくない姿に、やむにやまれずごみ拾いを始めました。カヌーが得意な佐藤さん(現・名誉会長)に操縦方法を教えてもらって川を流れるごみを拾っていった。それが草加パドラーズのはじまりです。ちょうど館長を退職したタイミングだったもので、次はこれをやるぞと」

てっきり昔からカヌーが得意だったのかと思いきや、それまでは全くの未経験だった中島さん。今ではカヌーを華麗に乗りこなし、草加市カヌー協会の理事長を務めています。

家具家電が漂い続けた綾瀬川

この地で生まれ育った中島さんの目に、綾瀬川はどう映っていたのでしょうか。

「私が学生のとき、綾瀬川が一気に汚れていきました。1964年の東京オリンピックがあった高度経済成長期。そこから綾瀬川は何十年と汚れ続けて、何年も連続で水質ワースト1に入っていました。ベッドに冷蔵庫、洗濯機、ブラウン管テレビ……家具、家電がたくさん流れてきてね。近くで遊んでいた子どもたちに手伝ってもらってどうにか引き上げたことを、今でも思い出しますよ」

今見かけることの多いごみはペットボトル、瓶、缶などの飲料関係で、全体数は少しずつ減ってきているんだそう。それでも、1日に30袋分のごみが集まることもあると言います。

「これまで拾った量は、45L袋6,000個分以上。参加者数も9,000人を超えました。活動の度に必ず参加者を記録して、会報誌で発信しています」

この丁寧でこまめな行動には、この活動の根幹となる熱い想いが詰めこまれていました。

「参加した人は皆、綾瀬川を未来へつないだ立派な一人。まちに誇る大切な人として、きちんと名前を刻んでおかないとね」

水辺を生かしたまち、そして安全なまちへ

草加パドラーズには、3本柱の目的・目標があります。1つめは河川の美化活動。2つめはカヌーというスポーツを通して水辺に親しんでもらうこと。そして最後の3つめは、水辺を生かしたまちづくりです。

「いろんなことをしているけれど、誇れるまちであるためには安全性も重要。大雨で利根川が決壊すれば、ここ一帯は水で溢れてしまいます。だから、もし建物に残された人がいたら助けられるようにと、小型船舶免許を取りました。会員でも12名の方が取得しています。自主水防団を結成して、繰り返し人命救助訓練もやっていますよ。洪水時以外で誰かが流されてしまった場合でも、消防が駆けつけるより私たちが行った方が早いこともあるしね」

さらに、地震などで公共交通機関や道路が封鎖されてしまったとき、川は立派な道となるケースも。舟運の歴史を持つ綾瀬川・草加市だからこそ、モノや人を運ぶ通路としての役割も念頭にうまく活用していくことが重要なようです。

「普段からごみで溢れる川だったら、カヌーや舟は思うように前に進めないですよね。日常的にごみを拾うというのは、いざというときの道を整備することになる。つまり災害の備えになるんです。さらに、ごみが流れてくるスピードは、人が流される速さと基本同じ。カヌーに乗りながらごみを拾うというのは、人を救出する練習にもなるんですよ」

カヌーでのごみ拾いは人命救助や防災につながるという強い事実。中島さんに加え、会長の木村さんが丁寧に教えてくれました。

河川環境だけでなく、行政や子どもの意識も変えていく

「私たちの清掃だけでは、解決できない課題も多い。だから行政と連携しなくてはいけません。毎日のように川の様子を見て、いろんな人に協力をあおいできました。すると、市や県の職員さんも議員さんも積極的に動いてくれるようになってきて。船着き場に入るための鍵も貸してくれるようになりました。着実に私たちがこの川とまちを変えているという手応えがあります」

川の環境だけでなく、市や県の方々の体制も変えてきた中島さん。市民が多く行き交うこの地で活動を続けてきたことで、市民の目にも変化が出てきました。

「活動を見て、お手伝いさせてくださいと次から次へと協力者が増えていった。自転車で横を通る人も、散歩中の親子も、こちらを見つけると立ち止まって『ありがとうございます!』って手を振ってくれるんですよ。本当に嬉しいことです。この8年間は無駄じゃなかったなあと。これからも、川に親しむ子どもたちを増やすことで、『僕の時代はもっとキレイな綾瀬川にしてやろう』って気持ちになってもらえたらいいなと思っていますよ」

子どもたちへの想いを言葉にするとき、自然と語気を強める中島さん。こんなにも子どもたちへの想いが強いのには、理由がありました。

「37年間、小学校や養護学校で教壇に立っていました。教員のいいところは、未来の子どもたちに夢を与えてあげられることだね。これに尽きますよ。だってこの日本、このまちをよくしてくれるのは、次の人たちだもの」

中島さんが見据える先にあったのは、次世代の子どもたち、そして未来のまち。草加パドラーズは、河川環境の改善だけでなく、さまざまな人の心や行動、そして未来のまちまで変えていくはず。そう強く感じさせられました。

「死ぬまで続けようかなと思ってますよ」と微笑むリバープレイヤー・中島さんの活躍は、今後もまだまだ続いていきます。

今日活動したメンバー。平日はリタイア後のメンバーがメインだが、土日は働く世代や子どもの参加も多い。

◆草加市より綾瀬川上流に位置する川口市では、「綾瀬川を愛する会」が活動中。草加パドラーズとも交流があり、同じく河川環境改善に尽力しています。

特集記事「水質ワースト入り常連「綾瀬川」は、今や「キレイな川」へ

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