皆さんは、環境省(当初選定時、環境庁)が選定した「名水百選(昭和)/平成の名水百選」を知っていますか?名水と聞くと、透明度の高い水、美味しい水、秘境で出会える水などを思い浮かべるかもしれませんが……この百選は、水質だけでなく保全活動や地域文化の実態などもポイントになっているんです。
「名水百選」として最初に発表されたのは、1985(昭和60)年。全国にある清澄な水を再発見すること、広くその良さや尊さを知ってもらうこと、水質保全への認識を深めてもらい積極的に良質な水環境を保護すること、などを目的として選ばれた100点の湧水や河川が名を連ねています。
2008(平成20)年には、地域の生活に溶け込んでいる清澄な水や水環境の中で、特に地域住民などによる主体的で持続的な水環境の保全活動がおこなわれているものを「平成の名水百選」として100点を追加選定。実はこの合計200選の中に、埼玉県にある5つのスポット・水が選ばれているんです!
そこで本記事では、埼玉県内で「名水百選(昭和)/平成の名水百選」に選定された5つのスポット・水をご紹介していきますよ!
(※選定された名水は、飲用に適することを保証するものではありません)
日本武尊の剣で湧き出した!?風布川・日本水。
1つめは、寄居町にある「風布川(ふうっぷがわ)・日本水(やまとみず)」。昭和に選定された名水百選に県内で唯一選ばれている、とても清らかな水です。
日本水は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の際に戦勝を祈願して釜伏山中腹の大岩壁「百畳敷岩」に剣を突き刺すと、たちまち湧き出したという伝説のある名水。またそのとき、日本武尊はあまりの冷たさに一杯しか飲めなかったとの説から「一杯水」という別名でも呼ばれてきたんだそう。
古来より枯渇したことがないとされるこの水は、古くから干ばつ時の農民の雨乞いのもらい水とされてきた歴史を持ちます。縁結びや子授け、安産、不老長寿のご利益があるともいわれ、水源には「日本水大神」がまつられていますよ。このことから、県内外問わずたくさんの人が訪れる場所でもあるんです!
この日本水を源流とするのが風布川。7つの支流と合流し、寄り添うように流れ落ちる夫婦滝(めおとだき)を通って玉淀湖に注ぎます。
なお、日本水源泉は岩場崩落の恐れがあるため現在は立ち入り禁止に。日本水が欲しい方は、近くに用意されている水汲み場に行ってくださいね。
天気占いにも使われる水、毘沙門水。
次にお届けするのは、小鹿野町にある「毘沙門水(びしゃもんすい)」。ここからは平成の名水百選を続けてご紹介していきます。
石灰岩でできた山である白石山(別名:毘沙門山)の麓から湧出する水で、カルシウムなどのミネラルが豊富に含まれています。かねてから飲み水や生活用水として地域住民や観光客に親しまれ、地元の天気占いの神事「馬上(もうえ)のクダゲエ(管粥)」にも用いられているんだそう!
馬上のクダゲエとは、毎年1月14・15日に諏訪神社でおこなわれる小正月の粥占い行事。14日の夜に、束ねた篠竹をおかゆと一緒に炊き上げて神前にお供えし、15日朝に管を割って、内側の湿り具合で1年間の天候、30種の作柄、雨、風、大世(社会情勢等)を占うものです。このように、毘沙門水は地元の方々の暮らしと強い結びつきを持つ水だといえるようですね!
神社や祭りに縁が深い、武甲山伏流水。
3つめに紹介するのは、武甲山伏流水(ぶこうざんふくりゅうすい)。秩父市と横瀬町の境にある武甲山を流れてきた水で、伏流水(ふくりゅうすい)とは「地表より下を流れる水」を指します。
京都祇園祭や飛騨高山祭とともに日本三大曳山祭の一つとされる「秩父夜祭」の起源になった水とされ、伝統と文化において非常に重要な役割を果たす存在なんです!
この伏流水が汲めるスポットとして挙げられるのは、「秩父今宮神社」と「武甲酒造」。秩父今宮神社には、水が汲める「清龍の滝」のほか、武甲山伏流水が湧き出る秩父最古の泉「龍神池」があります。そして200年以上の歴史を持つ老舗・武甲酒造の中には、武甲山伏流水の湧き出す井戸が。容器を持参すればこの水を持ち帰ることができますよ!
このほか、「妙見七ツ井戸」として野菜洗いなどに使われている井戸もあり、地域住民の生活に密接した存在でもあります。
世界で唯一!元荒川ムサシトミヨ生息地。
4つめは、熊谷市の元荒川源流部に位置する「元荒川ムサシトミヨ生息地」です。
埼玉県の「県の魚」、熊谷市の「市の魚」であり、絶滅危惧種に指定されている魚「ムサシトミヨ」。この魚が世界で唯一生息する場所です。この源流部400mは1991(平成3)年に県の天然記念物に指定され、環境省からは「平成の名水百選」だけでなく「ふるさといきものの里100選」としても認定されていますよ。
ムサシトミヨの体長は3.5〜6cmと小さめで、寿命は約1年。身体にウロコがなく、身を守るときなどにトゲを出すという特徴を持ちます。さらに興味深いのは、小鳥のように巣をつくってオスが子育てをするという点!とても珍しいですよね。
また、水草が生えた冷たくキレイな川でのみ生きられる魚のため、この源流部がとても美しく澄んだ水が流れるスポットであることがよくわかります。
熊谷市ホームページによると、「川は、水草がゆらめく清流で、住宅地をぬって大きく曲がりながらさらさらと流れています。その様子は、まるで童謡の「春の小川」を思い出させます。」とのこと。
耳を澄ましてみよう、妙音沢。
そして最後5つめに紹介するのは、新座市にある「妙音沢(みょうおんざわ)」。
荒川水系黒目川沿いの急斜面から2本の湧水が絶え間なく流れている沢で、100mほど流れ着いたところで黒目川に合流します。市はこの一帯の3.3ヘクタールの斜面林を「妙音沢特別緑地保全地区」として指定し、保全活動をおこなっています。
妙音沢という名は、信仰深い盲目の琵琶法師が弁財天から琵琶の秘曲を授かったとされる伝説からきているそう。この一帯では、キレイな水にしか生息しないプラナリア、サワガニ、ヘビトンボなどが見られ、貴重な植物も数多く自生していますよ。
ここまでで紹介した名水のほとんどは、県の湧水地として紹介されています。秩父の湧き水を楽しむマップなどにも登場しますので、こちらもぜひ見てみてくださいね!
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0505/tikasui-jibantinka/yuusuicyousakekka.html
◎スポット基本情報◎
―風布川・日本水―
▼住所
寄居町大字風布
▼アクセス
電車:秩父鉄道「波久礼駅」より徒歩 約100分
―毘沙門水―
▼住所
小鹿野町藤倉
▼アクセス
電車・バス:西武秩父線「西武秩父駅」→栗尾行バス「小鹿野町役場」→長沢行きバス「馬上」より徒歩3分
―武甲山伏流水―
▼住所
秩父市宮側町21-27(武甲酒造)
▼アクセス
電車:秩父鉄道「秩父駅」より徒歩3分
―元荒川ムサシトミヨ生息地―
▼住所
熊谷市久下2148-1(熊谷市ムサシトミヨ保護センター)
▼アクセス
電車・バス:JR「熊谷駅」→熊谷市ゆうゆうバス ムサシトミヨ号「ムサシトミヨ保護センター入口」より徒歩1分
―妙音沢―
▼住所
新座市栄1-12-15
▼アクセス
電車・バス:西武池袋線「大泉学園駅」→ 新座栄行きバス「新座栄」より徒歩5分