川幅日本一である荒川を有し、県全体に占める河川面積の割合が全国2位である埼玉県。東京に隣接する関東圏でありながらも日本有数の「川の国」であるこのまちには、人々の暮らしを豊かにするための新たな水辺の活用法がまだまだ眠っているはずです。

実在する“知財”から新規事業を起案するクリエイティブ・メディア『知財図鑑』が、「知財×埼玉の川」で実現できるかもしれない未来の事業アイデアを紹介します。

知財図鑑の「妄想プロジェクト」とは?

「知財図鑑」はクリエイターの視点で「世界を進化させる」テクノロジーをわかりやすく解説し、そこから研究者や開発者が想像していなかった未来のアイデアを“妄想”することで、新たな活用の可能性を起案しています。

テクノロジーから独自に発想した新規事業アイデアは「妄想プロジェクト」と題してイラストを交えて紹介しており、公開されたアイデアがきっかけで新たなプロジェクトや企業とクリエイターの交流が生まれるプラットフォームにもなっています。

知財図鑑に掲載されている「妄想プロジェクト」の例

本コラムでは、知財図鑑の編集部と、埼玉県水環境課を含むSAITAMAリバーサポーターズのメンバーがコラボレーションして考えた「知財×埼玉の川」の妄想プロジェクトについて紹介していきます。

知財「ばっ気設備」から未来の水辺を妄想する

まず自由に妄想するには、発想の土台となるテクノロジーが必要です。今回は、知財図鑑でも紹介している、荏原製作所の保有する知財「ばっ気設備」を採用しました。

「ばっ気設備」とは、水を空気にさらして液体内に酸素を供給する「ばっ気」を行う空気供給装置です。

この知財「ばっ気設備」の特徴を簡単に整理してみましょう。

①プールからダム・河川まで、水中環境を整える空気供給装置
②微生物を活性化させ、水質を向上させる
③酸素を濃くすることにより有機性の汚染物質を処理
④水位変動の影響を受けにくく、安定した空気供給が可能
⑤ヘドロや生物の死骸を巻き上げず、水だけを浄化する

以上のように知財の持つ機能を整理した上で、用途を拡張して新たな活用アイデアを妄想していきます。ちなみに知財図鑑では以前、「ばっ気設備」から下記のような未来のエンターテインメントを妄想しました。

「水中を自在に行き来する水上アトラクション」

「ばっ気設備」によって浮力をコントロールすることで、局所的に水中に浮き沈みできるゾーンを作れば、巷の平面だけを流れるプールとは異なり、全方位型の新感覚のエンターテインメントがつくれるかもしれません。埼玉の水辺の一角に、こうしたアミューズメントのスポットを作ることができれば、全国でも類を見ない新たな観光スポットになるでしょう。

今回は、知財図鑑とリバーサポーターズのチームでブレストした新たな妄想アイデアを紹介していきます。「ばっ気設備」を開発した荏原製作所担当者様にも、アイデアの実現可能性についてコメントをいただきました。

妄想①「川で整う、露天のリラクゼーション酵素風呂」

「ばっ気設備」の技術を応用し、水中の微生物の働きや酸素濃度をコントロールすることができれば、酵素風呂・酵素浴のようなリラクゼーション施設を水辺に再現することができるかもしれません。移動式サウナと隣接したり、屋外における日光浴と開放感満点の“川風呂”への入浴を繰り返すことで、新たな「整い」体験を創出することができそうです。

▼知財ホルダー:荏原製作所様からのコメント
水中の微生物や酵素の働きを「ばっ気装置」でコントロールするこの発想は新しいリラクゼーション市場の可能性を感じます。気体の温度や成分、気体の吹き出し方法、酵素の種類や水に対する割合、求めたい効果に合った酵素を選定していく必要はありそうですが、豊かな埼玉県の川の傍に「ばっ気装置」技術を利用した酵素風呂があれば、心身ともにリフレッシュできそうです。

妄想②「アーティスティックな“映える”寺の池」

大きなお寺などには情緒ある池が併設されている場合もありますが、池の水質や生態系の保全まではなかなか手が回らないという実情もあるようです。「ばっ気設備」を使えば、水質の浄化により清らかな参拝空間を創出できるとともに、ばっ気設備自体の「パイプ」をあえて剥き出しにしてカラフルかつアーティスティックな配置することで、若者に刺さる観光スポットとして新たな認知を獲得することができるかもしれません。地元の美大生などとコラボレーションしても面白そうです。

▼知財ホルダー:荏原製作所様からのコメント
ばっ気により、池の中の微生物を活性化させることで水中の汚濁物質の消化分解を促進して水質を向上させることが可能です。また、溶存酸素を増加させることにより、汚れた水が苦手な魚を元気にすることができるかもしれません。微生物が消化できない汚れは残ってしまうので、その汚れを掻き出すシステムと一緒に使うと更にきれいになると思います。

妄想③「ばっ気の泡で川に浮き上がるコバトン」

「ばっ気設備」のパイプを上手に設置して、泡の排出を精緻にコントロールできれば、田んぼアートならぬ「池の泡アート」が実現できるかもしれません。埼玉県マスコットキャラクターの「コバトン」や「さいたまっち」が泡の形で浮き上がってくる水面スポットがあれば、水辺が街のランドマークとなるでしょう。文字やロゴを泡で浮かび上がらせることもできれば「水面広告」を使った斬新なキャンペーンができそうです。

▼知財ホルダー:荏原製作所様からのコメント
「ばっ気装置」は泡を広く拡散させ水中に酸素を溶け込ませることが目的なので、泡をコントロールして泡を残す、という逆の発想はありませんでした。しかし、水を球体にしたり、泡を照らして演出する技術が世の中にはあるようなので、更にコラボレーションが広がるかもしれません。ある時間になると、水面に「コバトン」や「さいたまっち」が浮かび上がる演出があったら、ラスベガスの噴水ショーのように、埼玉県の新たなスポットになるかもしません。

妄想④「魚から野菜まで、“川の畑”サブスクサービス」

「ばっ気設備」により水質のコントロールができれば、狙った水域で魚や野菜の育成ができる新たな漁法・農法の確立ができるかもしれません。埼玉ならではの豊かな自然の恵みを享受した“川の畑”から生まれた食品をブランド化し、月額のサブスクリプションサービスとして展開することができれば、地域の水辺資源を最大限に活用した新たなフードビジネスモデルができそうです。

▼知財ホルダー:荏原製作所様からのコメント
水棲生物の糞尿等を植物の肥料に活用して閉鎖環境で水産物(養殖)と農産物(水耕栽培)の両方を生産しようとするアクアポニックスというシステムがあります。川のような開放系の環境では天候の影響を受けやすく、システムの構築が難しいかもしれませんが、精緻な水量、水質コントロールができれば、環境にやさしい大規模なアクアポニックスが実現できる可能性はあるでしょう。

“妄想”を現実にして、未来の水辺をつくるために

今回紹介したこれらの“妄想”は、あくまでアイデア段階のもので、まだ実施が決まったプロジェクトではありません。ただ、これらは荒唐無稽なアイデアではなく、実存するテクノロジーを基盤とした妄想です。こうした資源や技術を起点にして、クリエイターや地域の人々が自由に・無邪気に妄想して発信することが、人々の興味や好奇心を掻き立てるきっかけとなり、実現可能性が一歩前進するのではないかと知財図鑑は考えています。

そうした妄想を目に見える形で伝え、声を上げることで、当事者や開発者すらもが予想していなかった未来の可能性を引き寄せることができるはずです。

今回ご紹介した妄想を、「実現したい」「事業にしたい」「まずは話をしてみたい」と感じた方は、ぜひSAITAMAリバーサポーターズまでお問い合わせください。まずは自由な妄想から、埼玉の“未来の水辺”を描いていきましょう。

▼知財図鑑のWEBサイトはこちら
https://chizaizukan.com/

▼「ばっ気設備」の詳細はこちら
https://chizaizukan.com/property/174/

▼荏原製作所のHPはこちら
https://www.ebara.co.jp/

この記事を書いた人

松岡 真吾(まつおか しんご)

1991年岐阜県岐阜市生まれ。知財と事業をマッチングさせるクリエイティブ・メディア「知財図鑑」副編集長。東京多摩地域のカルチャーを扱う紙媒体の編集と映像制作、企業や行政・大学等のWEB/グラフィックコンテンツの企画ディレクターを経て知財図鑑に加入。

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