消防・警察・民間事業者が一丸となって命を守る

例年より大幅に早く梅雨明けを迎えた関東。暑い夏を涼しく過ごそうと、川辺へ遊びにでかける方も多いのではないでしょうか。

浅瀬での水遊び、ラフティング、SUP、釣り……と楽しいアクティビティが盛りだくさんですが、そのときに気をつけなければならないのが「水難事故」です。

荒川での水上アクティビティが人気の埼玉県・長瀞では、19年前(平成15年)から毎年「消防・警察・民間事業者」が一体となって水難救助訓練をおこなっています。

この訓練がはじまったきっかけは、平成13年に起きた岩畳下流の通称「白鳥島(しらとりじま)」付近で発生した崩落事故。このときの教訓を生かし、長瀞に訪れたみんなに楽しく充実した時間を過ごしてもらえるよう、訓練や情報交換をおこなっています。

今回、リバサポ企業サポーターである「アムスハウス」、「カヌーヴィレッジ長瀞」、「カヌーテラフティング」の3社も参加。いずれも長瀞でラフティングなどのアクティビティ体験事業を展開する、川遊びのプロたちです。

なお、この訓練の幹事は、消防・警察・民間事業者が毎年持ち回りで担当しています。今年は秩父消防署北分署が幹事を務め、心肺蘇生や通報訓練に力を入れたプログラムを組んでくれました。

今回の記事では、訓練に特別参加したリバサポメンバーが当日の様子をお伝えしていきます。水辺のお仕事をされている方だけでなく、川遊びに出かける方にとっても非常に参考になる内容ですので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね!

訓練概要

『令和4年 長瀞地区官民合同水難救助訓練』

・日時:2022年6月16日(木)9:15〜12:00
・場所:長瀞町大字長瀞 岩畳船着き場~大字本野上 大東河原
・参加団体:秩父警察署、秩父消防署、埼玉県秩父県土整備事務所、長瀞舟下り連絡会、長瀞ラフティング業者協議会加盟各社、長瀞町
※新型コロナウイルス感染症拡大を受けて、規模を縮小して実施しました。

事故発生数をできるかぎり減らすために

前日は雨模様だった長瀞ですが、この日は曇り空。気温も20℃と過ごしやすい気候です。

午前9時。参加者がぞくぞくと集まり、各々ヘルメットを装着します。もちろん、皆さんライフジャケットの着用もバッチリ!所属がバラバラになるように振り分けられた8班で、各プログラムに挑みます。

まずは、今年の幹事を務める秩父消防署長の挨拶で訓練スタート。

「新型コロナ感染症が落ち着いてきた今年は、多くの人が訪れるでしょう。事故発生防止が第一ですが、起きてしまった場合の救助方法をぜひ共有して備えてほしいです」との言葉が、参加者たちの気を引き締めます。

特に注目したいのは、近年の埼玉県内の水難事故発生件数!

「平成29年に24件発生して以降、その数は減少傾向にありましたが……昨年(令和3年)には再び24件にまで増加してしまいました」と秩父警察署長。官民一体となった事故防止活動の強化は、ますます重要になっていきそうです。

参加全メンバーで荒川をバックに記念撮影をしたら、今度は全員で準備体操。ケガをしないため、入念におこないます。

要救助者発見から救急到着までをシミュレーション

準備体操後の最初のプログラムは、「要救助者の発見・救助訓練」。訓練の手順は以下の通りです。

①要救助者を発見する
②ラフトボートで近くに向かい、要救助者をボート上に引き上げる
③陸上へ運び、119番通報&心肺蘇生をおこなう

上記内容を、班ごとに分かれて順に取り組んでいきました。

消防からは、「心臓マッサージのコツは『強く・速く・絶え間なく』!新型コロナウイルス感染防止のため、現在は人工呼吸を実施しないよう指導しています。心臓マッサージを続けながら救急隊の到着を待つようにしてほしい」とのアドバイスも。

119番通報のデモンストレーションでは、実際に業務で通報を受けている担当者が応対し、状況確認や心肺蘇生の本番さながらの雰囲気の中で応対を学びました。

要救助者の「意識の有無」で動きが変わるスローバッグレスキュー

場所を移動し、今度は「スローバッグ投げ」に挑戦。「スローバッグ」とは、水に浮くロープがついた袋で、水辺で流された要救助者を救出するために用いられる道具です。

今回は揺れるボート上から投げる難しさを身をもって体験するため、岸からの投げ込み訓練をする前にボート上からのスローにもチャレンジしました。

その後、今度は岸からスローバッグを投げ、要救助者をレスキューする訓練へ。実際の事故状況を想定し、要救助者に「意識がある場合」と「ない場合」の2パターンで想定訓練をおこないます。

まずは、要救助者に「意識がある」場合です。救助者は要救助者の下流側の岸で待ち構え、ロープをスロー。ロープを掴んだことを確認し、陸へ引っ張りあげます。

一方、要救助者に「意識がない」場合は、そのロープを要救助者は掴むことができません。したがって、もう一人の救助者が要救助者のもとまで泳いで近づき、要救助者を抱えながら投げてもらったロープで一緒に陸まで引きあげてもらいます。

ここでポイントとなるのが、ロープを投下する位置!適切な場所に投げないと、ロープを掴んでもらえません。失敗してしまったときは、さらに下流側に別の人が回り込み、再トライを試みます。

実際に、リバサポメンバーも要救助者役に挑戦!救助者役の消防隊員の方がしっかりと身体を支えてくれたので、とても安定感のある状態で岸までたどりつくことができました。普段から、綿密に事故を想定した訓練をされていることがわかります。

日頃の訓練や確認作業が生かされた一日

一通りのプログラムを終え、最後は閉会式へ。

次回の幹事を務める秩父警察署からは、「水難事故といっても、内容はさまざま。だからこそスイフトウォーターレスキュー(急流救助活動)は難易度が高く、『これが正解』というものはありません。こうして関係性を深めながら技術を磨いていくことが重要だと思いますので、引き続き連携をお願いします」といった言葉がかけられ、無事全プログラムが終了しました。

午前中だけの実施にも関わらず、ボートでの救助、心配蘇生、ロープでのレスキューと、盛りだくさんの内容だった本訓練。こうした救助訓練に慣れている方が多く、すべての動きがスムーズに進みました。

参加した消防・警察・民間事業者の声

実際に訓練に参加した方からの感想をご紹介。その言葉からも今後の連携強化につながる有意義な時間であったことが伝わってきました。

消防 民間の事業者の皆さんは救助のレベルが高い。一番早く駆け付けてくれることも多いので、非常に頼もしく思っている。3機関の連携を深められるよい機会だった。

警察 日頃の訓練が何より大事。そして、警察や消防がすぐ近くにいない場合も多いので、やはりいざというときにはライフジャケットが一番大事だと実感した。

民間事業者 日頃から救助訓練をおこない、毎朝の営業前に川を下って安全確認もしている。今日も日頃の手順の確認をしているイメージで落ち着いて実施できた。また、消防・警察とこうして交流できるのは貴重な機会で、楽しく参加できたのでよかった。

とびきりの思い出にするために

最後に、普段から救助要請を受け駆けつけている消防の方から、川遊びを楽しむ皆さんへのメッセージをお届け。

消防 長瀞での水難事故は、流されたサンダルを取りに行ったり、対岸に渡ろうとして発生しています。事故を防ぐためには、水に入らないことが第一。もし水に入るようであれば、必ずライフジャケットを着用してください。
また、我々としても万全を期したいと思っていますが、川遊びに訪れる皆さんも安全第一を心がけてください。特に親御さんは、お子さんから目を離さず遊んでもらえたら嬉しいです。

命を守るべく奮闘する皆さんの心強さを感じた今回の訓練。こうした方々に感謝しつつ、まずは一人ひとりが安全を心がけて行動することが大切ですね。

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