蛇口は川とつながっています。

蛇口の向こう側とエコ・クッキング

ご自宅の台所、流し台には「洗い桶」がありますか。野菜の水洗いや食器のつけ置きなどに便利ですし、節水にもつながります。「蛇口からは1分間に5~10リットルの水が出ます。例えば手や顔を洗う際、水をためて使えば約2リットルで済みます。同じ要領で調理のときは、野菜はまず洗い桶にためた水でしっかり洗い、最後に流水ですすげば十分です。エコ・クッキングにつながります」。

教えてくれたのは、東京ガス株式会社 都市生活研究所(東京都港区)所長・三神彩子さんです。水を1分間流しっぱなし(5リットル)にした場合と、ため洗い(2リットル)した場合を比較すると、年間で金額にして1,148円、水使用量4.4立方メートル、二酸化炭素排出量2.4キロの省エネにつながるとか(東京ガス株式会社 都市生活研究所「ウルトラ省エネブック」2023年1月発行より)。

三神さんらが2011年に発表した論文によれば、エコ・クッキングによる水使用量の削減効果はなんと約86%。水をこまめに止める。水量を必要以上出し過ぎない。洗い桶でため水を有効活用する。ゆで湯を調理器具や食器の下洗いに利用する。調理器具や食器の汚れを拭き取ってから洗う。これらの行動が大きな効果につながることが分かりました。

なんだか、家庭でできそうなものばかり。ちょっと面倒な気もしますが、意識すれば実践できそうですよね。今回は「暮らしの水」の話題。初めに蛇口の向こう側をのぞいて、エコな暮らしのコツを考えます。

東京ガス株式会社 都市生活研究所の三神彩子所長

水はどこから。融通する仕組み

さて、水はどこから来るのでしょう。まずは、60年前の記憶をたどります。1964年の夏、東京はオリンピック開催を前に燃えていました。ただ、深刻な水不足を抱えていました。この年はカラ梅雨で、5月以降の降雨量は平年の半分以下。多摩川水系の貯水池は干上がり、断水を含む給水制限が実施され、蛇口をひねってもほとんど水が出ない事態に。「水飢饉」に陥り給水車が出動し、新聞には「東京サバク」という見出しが躍りました。

埼玉県の鴻巣市と吉見町を結ぶ県道76号が荒川を跨ぐ糠田橋の300メートルほど上流に、武蔵水路が荒川と合流する注水口があります。武蔵水路が運ぶのは、利根川の水です。埼玉県行田市と群馬県千代田町の境、利根川に設けられた利根大堰で取水され、荒川へ導水しています。

武蔵水路は水不足の抜本的解消策として、1964年に着工。翌年には緊急導水を開始して、「サバク」から脱出する転機になりました。荒川と利根川を結ぶ武蔵水路は、流路延長14.5キロ。首都圏の都市用水(水道・工業用水)を供給する、遠く利根川上流の水がめと蛇口とをつなぐ大動脈です。

私たちの暮らしは、荒川の水に支えられています。利根川の水を合わせた荒川の水利権量をみると、発電用水が最も多く53.7%。次いで水道用水(28.8%)、農業用水(16%)、工業用水(1.5%)と続きます(平成29年度、国土交通省)。特に、水道用水はそのほとんどが埼玉県志木市にある秋ヶ瀬取水堰で取水され、埼玉・東京の約1,680万人の飲み水になっています。

武蔵水路。利根川の水を荒川へ運ぶ大動脈です。

節水。食器洗いのコツ

水を融通する壮大な仕組みに支えられている私たちの暮らし。いつでも水が出るのは当たり前ではありません。だからこそ、水を大切に使いたい。ちょっとした工夫で節水につながる暮らしのコツを、三神さんに聞きました。

食事の後片付け。食器を洗う前の工夫には3つあると、三神さんは指摘します。まずは、食べ終わった食器を重ねない。「特に油で汚れた食器を重ねると汚れていない食器の底までべたべたになってしまいます。食卓と流しまではわずかな距離ですから、昔ながらのお盆などを使って、食器を重ねずに運びましょう」。

2つ目は汚れを拭き取る。「いらなくなった古布などを使うのがお勧めです。10センチ角ほどに切って常備しておくと使い勝手がいいです」。キッチンペーパーやティッシュなどで拭きたくなるのはもっともですが、「製造過程で使用する水の量を考えると、エコ・クッキングとしてはお勧めしにくい」と三神さん。

3つ目は、ゆで湯やコメのとぎ汁を上手に活用する。精米技術が向上したことで、最近はコメはとぐのではなく、軽く水で流す「洗う」イメージで十分とか。「栄養価の高いとぎ汁は、庭木の水やりに使うなど無駄にしないようにしましょう」。また、パスタなどのゆで汁は、洗い桶などにためます。「溶け出した麺の粒子が汚れをよく落とします。湯温があるので、油汚れも落ちやすいです」。

普段から気になっていることを聞いてみました。鍋に残ったカレー。拭き取るにしても見た目以上に量が多くて毎回イラっとなります。何かコツがありますか。

「あぁ、もったいない。ゴムべらなどでこそぎとって食べましょう。使い切った油の容器には、お酢を入れてよく振れば即席ドレッシングの完成。わずかに残った油も有効活用です。エコ・クッキングは身近な食生活から始めるエコ活動です。節水のちょっとした工夫は水の汚れの軽減にもつながります」。

排水口の向こう側 台所から川の水質を守る

キッチンの排水口。汚れた水はどこへ行くのでしょう。今度は、キッチンの排水口の向こう側からエコ・クッキングを学びます。

川の汚濁発生源 「生活排水」7割超

埼玉県環境白書(令和5年) によると、県内河川の汚濁発生源の74%を生活排水が占めています。だからこそ、排出者である私たちの手で、川の水質を守りたい。

三神さんらが2011年に発表した論文によれば、エコ・クッキングでは洗剤の使用量を約36%削減する効果がありました。洗剤を希釈した洗剤液を使うと効果が大きいことが分かります。

生活排水は、浄化槽や下水処理施設できれいにして川へ流している、はず。なのに、なぜエコ・クッキングが必要なのでしょう。下水道や浄化槽の普及によって河川の汚濁は減少します。しかし、本来は川に戻るべき水が下水道に流れるため、川の水量が減少。川の自浄作用が働きにくくなっています。

また、下水処理施設が整備されていない地域の住宅などに設置されている浄化槽の老朽化も課題です。環境面や衛生面に問題があっても、取り替えに費用がかかることなどからそのまま使われているケースが各地で見られるといいます。老朽化した浄化槽の取り替えを進めるため、国も動き出しました。

大久保浄水場(埼玉県さいたま市)

エコ・クッキング 水を汚さないコツ

水をなるべく汚さない暮らしのコツを、三神さんに聞きました。

エコ・クッキングのコツは工夫と手順と、三神さんは言います。「食器洗いは汚れの少ないものから順に。こびりついている場合は、洗い桶につけて汚れを緩めるといいですね。仕上げは流水で洗剤をしっかり流します。このときに素早く洗い流せる湯すすぎも効果的です」。温めるためにエネルギーを使っているのに、意外な答えです。「使う場合は、給湯温度は低めに設定するのがお勧めです。私は32度で使っていますが、十分です」。

調味料を計量する。スペースを工夫して一つのフライパンで同時に調理する。鍋を使う順番を工夫する。「手順を工夫して洗う回数を減らせば、水を汚さないことにつながります。エコ・クッキングを実践すると、調理時間は短くなり、使う調理器具の数も減ります。おまけに省エネにもなります」。

それから、「洗剤の使用は適量を心がけましょう。洗剤を使い過ぎると、洗い流すために水をたくさん使いますし、水を汚す原因にもなります。例えば、手のひらサイズの容器に洗剤を数滴入れて洗剤液を作ることをお勧めします。少ない洗剤でもしっかりきれいに洗えます。ただし、洗剤液は必要な量を、その都度作ること」。

小さなボウルなどに洗剤を数滴、洗剤液を作って使いましょう。

4人分の食器や調理器具を洗う場合。スポンジに直接洗剤をつける通常のやり方ではなく、エコ・クッキングの手法で洗剤液を使うなどを取り入れると、金額にして年間7,667円、水の使用量23立方メートル、二酸化炭素排出量12.4キロの省エネにつながるそうです(東京ガス株式会社 都市生活研究所「ウルトラ省エネブック」2023年1月発行より)。

「1日、1エコ」を勧める三神さん。最後に、エコ・クッキングの実践と継続のコツを聞きました。「毎日違うエコに取り組もうと思ったら、それはしんどい。1エコが身につくまで続けることが大切です。1カ月で1エコが習慣になれば、1年で12エコを取り入れられます。まずはできることから始めてください」。汚れを拭き取ることから初めてみますか。ただし、古布を使ってね。

※エコ・クッキングは、東京ガスの商標登録です。

【参考資料】ウルトラ省エネブックの詳細はこちらから(https://www.toshiken.com/ultraene/

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